2020年2月16日日曜日

12月例会、1月例会、2月例会のご報告


12月例会

『クマと少年』あべ弘士:著 (ブロンズ新社)
 アイヌ独特の儀式などの文化を知ることになりました。同時に江戸時代からの開拓で迫害され差別されてきた歴史にも目を向けざるをえませんでした。同化政策を推し進めてきた歴史の中で生まれた「北海道旧土人保護法」があり、それがごく最近まで生きていたことに驚かされました。そして今もなお政府は差別と貧困をなくすための政策を進めることはなく、これまでの政策を反省して是正しようとしない政府の姿勢は今の韓国との関係にも共通する課題が見えてきます。あべ弘士さんの絵を読んでいく作業も楽しかったです

 参考資料

   『アイヌ語が国会に響く 萱野茂・アイヌ文化講座』

    萱野茂 他8名:著  1997年 草風館


  『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』

    中川裕:著  2019年 集英社

   『アイヌ民族:歴史と現在 ―未来を共に生きるために―』

    編集・執筆:小・中学生向け副読本編集委員会 阿部一司 他8名

    2008年3月 初版 第一刷

    2018年8月 第八版 第一刷

    発行:公益財団法人 アイヌ民族文化財団

 1月例会

『ぼくはマサイーライオンの大地で育つー』

ジョセフ・レマンライ・レクトン:著 さくまゆみこ:訳 (さ・え・ら書房)


ケニアのマサイ族としての誇りを持ちつつ生きる姿が描かれています。今まで知らなかったマサイの文化

に触れることができる作品です。他国家の侵略という歴史はなかったようですが、欧米化の波は避けられないようです。ケニア政府の政策などは不明ですが 主人公レクトンの通った学校はアメリカからの支援が見られます。またレクトン自身は大統領からの支援を受けられるなどの運の良さもあり、「学校」での学びが彼の生活を変えていきます。マサイの誇りを持ちつつ変わっていくレクトン。文字という文明とことばでの語りという文化。地球が自転していることさえ知らない母とレクトンのギャップ。少数民族は政府の支援を受けるためには政策に合わせた生活を強いられる。モンゴル同様遊牧が否定され定住を強いられる。日本でも生活の変化のスピードが速くなっている。

原始的といわれる人々に対して「上から目線」で支援することも見られがちだが、彼らの文化を尊重しつつの支援を考えさせられた

2月例会

『北のはてのイービク』 ピーパルク・フロイゲン:著 野村滋:訳 (岩波少年文庫) 

共にセイウチ狩りに出かけた父が亡くなり、貧困と飢えの生活が始まる。その後の長男イービクの家族を食べさせるための奮闘を描いている。エスキモーの生き方の厳しさを知り、そこで生きる意味や喜びを考えさせられた。その厳しさゆえに親類・縁者という集団としての支え合いが見られます。土地などの「所有」という概念はなく、みんなで分かち合いながらの生活はアイヌ民族やマサイ族の生活とも通じるものを感じます。

  カナダ政府は、1999年差別政策を謝罪し、ヌナブット準州を創設している。それに比べ日本政府のアイヌ民族への政策には疑問を感じます。侵略され虐殺された人たち、奴隷として連行された人たち、流れ込む文明に戸惑いつつ生活が変わっていく人たちについて話を深めつつ、私たちも新しい視点に気づかされたように思います。4月例会では「先住民」という問題について、より深く話しあえればと思っています。

 参考資料

『ちいさなりょうし タギカーク』V.グロツェル G.スネギリョフ再話 

アジア・エスキモーの昔話

松谷さやか文 高頭祥八画 福音館書店

1997年11月こどものとも世界昔ばなしの旅第1刷

『北極地方のエスキモー』先住民族シリーズ① 河津千代 リブリオ出版 1989年4月初版

『エスキモーになった日本人』大島育雄 文芸春秋 1989年8月第1刷

『極夜の探検』角幡唯介文 山村浩二絵 福音館書店 

たくさんのふしぎ2020年2月号(第419号)

  『極北の大地の深い夏』宮崎明子 岩波書店 2005年6月28日 第1刷



参考までに

『精霊の木』上橋菜穂子作(偕成社)あとがきから

 この作品を上橋さんが書かれたのは大学院生で沖縄のフィールドワークを体験していた。その体験がこの作品を生み出すイメージとつながっているのだろう。沖縄も日本という国に侵略されている。

 「世界じゅうに散在する、〈精霊を信じる人びと〉の歴史は、あまり知られていません。現在〈歴史〉として知られているものは、彼らを支配した側が書いた、〈歴史〉であるせいかもしれません。

 かがやかしい、勇気と熱意の大航海時代。新大陸の発見!―けれども、その〈発見された〉人びとが、どれだけ悲惨な歴史をたどったか、いまもなお、どんなにくるしい状況の中にいるかを知っている人は、おおくはないでしょう。

 (中略)西部劇が、世界じゅうの人びとにうえつけたイメージのなんと強力なこと!本当の歴史を知った人ならきっと、そんな映画をつくれる人の心に、いいしれぬ恐怖を感じるでしょう。」


 上橋さんはエッセイで『イシ 二つの世界を生きたインディアンの物語』という本にふれ、ヤヒ族最後の一人になったイシについて「自分の伝統文化を守って、ずっとひとりぼっちで生きろと誰が言えるでしょう。ふたつの世界で生きていくということはけっしてラクなことではないし、スパッと割り切れるほど、単純な話でもありません。」と書いています。